Anime(アニメ)は、今や英語など他言語でも外来語として用いられるほど、日本が世界をリードし続けているカルチャーの一つです。今や老若男女を問わず、あらゆる人からあらゆるメディアを通じて愛されています。ひと昔前までは、通勤電車でいい年をした背広姿の乗客がマンガを読みふけっている姿を外国人旅行客が珍しがってクスクス笑っていましたが、今では他の国でもアニメに夢中な「いい年をした」大人を普通に見かけます。
これだけ人気の定着したアニメのキャラを広告に活用しない手はありません。以前からあるお菓子や飲料などでのアニメキャラを配したパッケージやネーミングはもちろんのこと、自動車や金融など、大人向けの商品やサービスでも既に盛んに使われています。アニメキャラの広告や販促等への活用にはどんなメリットがあるのか、注意点は何かをご紹介しましょう。
タレント広告との比較で見たアニメキャラ広告の特徴
有名タレントが出演する広告は枚挙にいとまがありませんが、アニメキャラが主人公を演ずる広告も数多く存在します。どちらもタレントやアニメキャラなど「第三者」の知名度やインパクト、好イメージにあやかり、自社製品の知名度やイメージをアップさせる、という点で共通しています。ただ商品や企業の「顔」として広告などで活用する場合、アニメキャラにはタレントとは違った特徴があります。
まず、「年を取らない」。厳密には「成長の設定はストーリー次第」というのが正しいでしょうか。「サザエさん」のように放送開始から50年以上、登場人物の年齢設定が変わらないものもあれば、「島耕作シリーズ」のように主人公の年齢設定をストーリーに合わせて変えていく作品もあります。ロングセラーのアニメシリーズでは、声優の方が年を取ってしまい、あるいはお亡くなりになったりして途中で代わっているのに、アニメキャラ自体は一切年を取っていない例も一つや二つではありませんね。ターゲットを絞った販促戦略を立てる場合は活用価値がありそうです。
次に、「問題を起こさない」。これも正確には「プライベートでの事故・事件がない」、ということでしょうか。アニメキャラには人の知らない私生活などないわけですから至極当たり前のことですが、一方で起用タレントのスキャンダルのせいでイメージダウンになってしまった企業があることを考えると、これもアニメキャラの大きなメリットと言えます。ストーリーの上では大泥棒や殺し屋だったとしても、イメージダウンどころか憧れの的なのですから。
そして、「スケジュールが取りやすい」という点も見逃せません。有名なアニメキャラになると専属のアニメ制作会社があって、その制作チームの時間が取れずタイトなスケジュールを余儀なくされることはありますが、少なくとも「本人」の都合でスケジュールが左右されることはないわけです。
最後に、「表現の自由度が高い」。例えば何百年も昔の設定に登場するキャラに21世紀の新製品のことを語らせるとか、正義のヒーローに草野球をさせるとか…広告クリエイター冥利に尽きるようなユニークな企画も実現可能です。ただし、時と場合によります。アニメキャラのこういった二次使用に寛容な権利者もいれば、逆に本編のキャラクター設定と寸分違わぬ描写しか許可しない人もいるからです。そもそも広告での使用を一切認めないケースもありますので、企画の際に前もって確認が必要なのはタレントと変わりません。
特にロングセラーのキャラクターの場合、イメージも安定しているので、やはりロングセラーの商品や企業広告とは相性がよく、長期にわたり使用している例も少なくありません。
Tips アニメキャラの広告使用は、安定したイメージ価値の享受を期待できる
アニメ制作技術の今
アニメキャラは長期にわたり変わらぬ価値を提供し続けるのは前述の通りですが、一方で昨今のアニメ制作の技術進歩とそれによる描写方法の進歩は目を見張るものがあります。
そもそもアニメはどうやって動きを表現するかというと、パラパラ漫画のように少しずつ違う絵を連続的に出すことで滑らかに動くように見せているのはご存じかと思いますが、アニメの黎明期はそれを全て1枚1枚、人が書き上げていました。その際、全画面の1枚1枚書き起こすのは大変なので、動かすのを手前の人物だけにして、背景は静止画を使うのが一般的でした。それでも当時のアニメ会社の制作スタッフは殺人的スケジュールをこなしていました。
しかしデジタルやAIの出現はアニメの制作現場を一変させました。より複雑な背景や動きがコンピューターの画像処理により短い時間でできるようになりました。ゲームで使われている3Dグラフィックスやモーションキャプチャーの技術がアニメ制作にもどんどん応用され、高画質でスケール感のある絵作りが可能になっています。ただ、新しい技術というのはなぜか、スタッフの労働時間の短縮よりも、完成画質の高度化の方に使われがちで、アニメ制作会社の労働環境は決して改善されたとは言い切れません。逆に「あんなこともできるのでは?」「こんなことも試したい」と絵作りへの期待が高まり過ぎているのでは、と心配の声もあります。
話を「アニメの広告利用」に戻します。リアルな映画には「プレースメント」という広告手法があります。映画制作に協賛してくれた企業の商品を、さりげなく映画のシーンの中に登場させる、というものです。デジタルの画像処理技術を使えば、理論上、アニメーションの中に商品をかなり高画質・高次元で登場させることができるのです。商品を登場させるだけでなく、登場人物と絡ませるなど自由な発想を実現できます。こうした画像技術は「アニメ映画プレースメントなどのタイアップ企画」にも「アニメを活用したCM」にも応用でき、広告表現の幅も大きく広がったと言えます。
Tips デジタル技術がアニメ広告利用の幅を大きく広げた。
アニメキャラを上手に活用するには
商品や企業のシンボルとしてもメリットが多く、技術的にできることも広がっているアニメですが、気を付けておきたい点もあります。
まず、タレントと根本的に違うのは、アニメキャラの容姿は「肖像」ではなくて「著作物」だ、という点です。あくまでも元となるマンガやアニメ作品の一部なのです。外見だけでなく、歩き方、表情の付け方、性格や癖まで作品で設定されていて、それと矛盾するキャラ設定を認めない権利者も多くいます(面白がってノッてくる場合もありますが)。商品パッケージや印刷物に静止画をアイキャッチャーとして使用したい場合、権利者側が広告利用目的のための画像を予め用意してそれを使うよう指定してくることもあります。広告独自のアニメを作りたい場合、前述のように権利者指定の制作会社でしか作らせないことも多いようです。
「声」についても注意が必要です。こちらは「同一性の保持」など著作物としての観点の他に声優自身の「声の肖像権」というのもあり、アニメ使用とは別条件になる場合もありますから確認が必要です。
昨今の声優ブームで、声優を声のタレントとしてCMなどに使うケースも増えています。著名な俳優が声だけ出演するテレビCMもよく見かけます。声だけの出演であれば外見まで使用する場合に比べ廉価で契約できますが、「あのCMの声は〇〇というアニメの△□役と同じだ」などとSNSで話題になったりして、起用した企業側からは広告料以上の波及効果が期待できる場合もあります。注意が必要なのは、「声優の声の出演」のみの契約を声優と結んだ場合、その声優が出演するアニメの著作権に抵触することはできない、という点です。例えば、「〇〇というアニメの△□役のような演技をして下さい」というお願いは基本的にはできません。
生身のタレントであれば、広告への出演だけでなく、会社のセレモニーや講演会などに出席してもらう、果ては経営そのものに参加してもらうような関係に発展することも事例としてありますが、アニメキャラの場合は使用用途に応じて使用範囲や使用の仕方を限定して契約するのが基本と言えます。使う側からすれば効率のよい条件で成果を期待できる、とも言えるでしょう。このようなアニメの特徴を踏まえてコミュニケーション計画を立案すれば、「オトクな」プランニングとなることでしょう。
Tips 「声だけ出演」が、思わぬ波及効果も。
まとめ
映画館で上映される映画の人気ランキングを見ると、アニメ映画は必ずと言っていいほど上位に名を連ねています。実写の映画やドラマの中にも、アニメやコミックを原作とするものがいかに多いことか。夏休み恒例の子ども向けのものから、アクション、SF、恋愛、ホラーなどジャンルもファン層も多岐にわたり、日本国内はもちろん、世界的にも主流文化の一つと言ってよいでしょう。アニメキャラのタレント性と特徴を踏まえて広告にうまく活用すれば、アイキャッチャーとしてもイメージ形成としても期待以上の効果が期待できる、と言えそうです。