新型コロナが人々のくらしに影響を及ぼしてから3年もの月日が経とうとしています。いま我々はパンデミックの脅威を常に意識しつつも、ITを駆使しながら、おうちと社会との新たなつながり方を賢く編み出して、日々の充実を実現しはじめています。通販も、その流れに一役買っている重要ファクターのひとつです。今回は、大きな市場成長を続けている通販のトレンドについて、いま生活者の実情はどうなっているのか、そして今後どのような方向にむかうのかについて検証していきます。
巣ごもり需要でますます成長する通販市場
通販は、その高い利便性でくらしのなかに浸透し続け、市場の拡大を堅調に進めてきました。そしてこのコロナ禍でまさに破竹の勢いの成長を遂げています。2020年「国内主要820社の通販売上」は、10兆6300億円で前年度比約20%増という結果をはじき出し(日本通信販売協会)、いまやコンビニやスーパーと同等の市場規模です。また、個人事業主の参入を含む「物販系EC(Electronic Commerce=ネット通販) 市場」カテゴリーでみても、2020年の成長率プラス21%超と同様の伸びを示しており、スマホの普及と相まって市場のEC化が着実に進んでいます。そして、家電PC機器系、アパレル、食品飲料酒、生活雑貨という生活必需品が、市場の7割以上を占めています(経済産業省「
令和2年度 電子商取引に関する市場調査」)。
また、高年齢層のEC利用も進みました。ネットでの購入に抵抗があって伸び悩んでいた65歳以上のシニア層のスコアが、コロナ禍となった2020年からは、27.1%(4月)、30.3%(5月)、31.2%(6月)と月次で目まぐるしい上昇を続けています(総務省統計局 家計消費状況調査)。コロナ禍の「対面を避ける」生活習慣は、日常のショッピングにもシニアを含めてニューノーマルをもたらしています。衛生管理上の対策をきっかけに、新たな利便性への気づきが進み、日常でいつも使うものは気軽にネットで頼んで届けてもらうことが、一層当たり前になっていくでしょう。
出典:総務省統計局 「ネットショッピング利用世帯の割合の推移(世帯主の年齢階級別 二人以上の世帯)」
Tips 「何か欲しくなったらすぐスマホ」がふつうになったニューノーマル時代。
スマホネイティブがリードする新ECスタイル
しかしながら、ショッピングとは、決まりきったものを便利に注文するというだけのものではありません。買いたいと思うものに遭遇する楽しさ、実際に商品を手に取って見極める満足感など、リアリティ感を伴った悦びも常に求められています。
「スマホネイティブ世代」とも呼ばれる若年層においては、ネット上での買い物も、リアリティ感が満たされる環境にあるといえるでしょう。この世代の人々はすでに、ソーシャルメディア上のやりとり、動画投稿・共有に多くの時間を割く日々を送っています(令和元年総務省データ)。SNS上の世界こそがむしろ日々のコミュニケーションのメインを占め、リアルでエモーショナルな実感を得られる場となっている、というわけです。
出典:総務省「令和元年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」 TikTokやInstagramのライブなどを通じ、インフルエンサーのチェック、友達どうしでトレンド情報のやりとり、タレントさながらの自己表現発信を楽しむというのが、日常のコミュニケーションプロセスとなっています。そして、そこには「あたらしモノ」の存在が不可欠であり、自然にショッピングが組み込まれているのです。SNSでアンテナを常に張って、多くの選択肢からグッとくるものをチョイスし、試着やメイクのバーチャル体験、ブランド世界観の体感、ユーザー同士の楽しさのシェア、クリエーターへのフィードバック…すべてが一気通貫にWEBで完結していきます。
スマホネイティブ世代がリードする新たなデジタル時代の消費スタイルとして注目すべきは、タレントやブランドといった発信者側からの情報にただ追随するだけでなく、自分たちの間で共感性あるトレンドを作っている点にあります。あこがれ感だけでは嘘くさいと感じる傾向があり、人々へのコミュニケーションには、実生活でいかに素敵になれるかというリアリティ感も重要なポイントになっていきます。自分の日々の素敵な断片を常に切り取って発信することが仕事になっており、その手助けになるものが選ばれる傾向になります。また、実店舗については、WEBでは体験できないリアルなアトラクションスペースとして、この場にいることを発信したくなるようなイベント的付加価値も求められており、ショールーム化の方向へ進んでいるともいえるでしょう。
Tips 買ったらすぐに自己演出する若年層。「素敵なジブンを直接つくってくれるアイテム・イベント」としてEC上に登場すべし。
「デジタルシニア層」と人生100年時代のEC戦略
一方で、成人してからネットが世に普及した現在のミドルシニア以上の世代は、買い物の醍醐味のすべてをネット上のみで実現することはなかなか難しいのが現状です。これからの超高齢化社会、通販の「出かけることなし」の価値は高まり、EC利用がスタンダード化していき「デジタルシニア層」が拡大していくでしょうが、それが定番化する分、利便性やお得感だけでなく実際にお店に行ったようなワクワク感がある、シニア層のウォンツに合わせたバリューアップも求められていくことになります。
我が国の人口構成でみると、生まれたころからスマホに慣れ親しんだ層は若年層に過ぎず、まだまだマジョリティは非デジタルネイティブ層です。そして65歳以上のネット通販利用は現状3割程度となっており、これからのEC市場の拡大には、まさにこの「おとなエントリー層」の取り込みが肝要です。そして、人生100年時代、彼らを優良顧客として末永くおつきあいできることがビジネス成功の重要ファクターにもなります。彼らはネット通販のトライアルは遅ればせでも、すでに通販自体の利用は積極的であり、テレビショッピング、新聞通販との合わせ技も考慮しながら、お買い物マインドのツボを押さえてEC誘導をはかる戦略が必須となっていくでしょう。
以下、シニア層攻略を中心にした通販戦略のポイントをご紹介します。
限定感
今だけのお得プライス、ここだけの限定品など、商品との出会いを運命的なものに感じさせて、「今こそ」お買い時のムードを作ります。
逸話・世界観
「ここだけ」と単に豪語するだけでなく、それを魅力的に感じさせることも重要です。商品が生まれた逸話(例えば、化粧品であれば、美肌美人の多い地方の植物や温泉成分などのエピソードなど)で信奉をもたらしながらブランド世界にいざないます。
人間味
直接のリアルな人とのやりとりがない分、誰かがしっかり存在していることを示します。商品紹介するナビゲーターやカリスマのキャラクターづくりも有効。直接話しかけるような構えで人肌感を演出します。
オーソリティ
学者や有識者など専門家の推薦で、ある種の権威付けをし、買っても間違いのない、信頼のおける商品であることを指し示します。
リアルな反響
実際に使ってみて良いものであるということが最も大事なポイント。嘘っぽくない、共感できる、等身大ターゲットの実生活に即した生声に近いかたちでのユーザーコメント発信をします。
まとめ
これからの時代、ショッピングはECがメインとなりバーチャル化が加速していくなか、単なる利便性を超えた、人と人とのコミュニケーションで心をつかむ情緒的な攻略が差別化の基本となっています。テクノロジーとエモーションの融合で、ネット上にあってもそう感じさせない、人間のリアルな存在感がどんどん増し、買い物の楽しさ創出ももっとバージョンアップしていくでしょう。ECでもっと面白い日常へ。これからさらなる進化が期待されます。