広告表現にまつわる規制や制約、今回は「金融」について取り上げます。
同タイトルの「食品」編でも書きましたが、「広告」という表現コンテンツは、
「最も自由自在で、しかも最も規制が多い」
こんな言葉で言い表せると思います。クリエイターがありとあらゆる表現の可能性に挑戦している半面、実は様々な法令やルールなどで他のコンテンツにはない制約を受けてもいる、ということです。このうち「制約」の方に焦点を当て、今回は金融関連の広告にどんな制限があるのかを、表現を立案する立場で見ていきます。「どんなルールがあるかは想像がつくが、具体的にどうすればいいのか、悪いのか」という声に少しでも応えたいと思います。
表現への制限・3つの段階と金融>
広告一般の表現についてのコンプライアンスについては、
別の記事でまとめていますのでそちらもご覧ください。ここでは、食品の広告に当てはめて考えていきます。
一般に広告表現への制限は強制力の強い順に、A.法令による規制 B.人権侵害や差別などの社会通念 C.受信者の著しく不快な感情、と概ね3つの段階があります。ただ、金融関連についてはAの法令とほぼ同等の強制力のある規制として「A’.各メディア、および業界団体による自主規制」というものも忘れてはなりません。
金融の広告表現に関わる法律
広告表現の規制に関わる金融関連の法律にはどんなものがあるのでしょうか。
他の業界も含めて広告表現を規制するものは、景品表示法(景表法)、不当競争防止法、それに著作権法などがあります。この他にも各業種に関係する法律があり、金融の場合は、銀行法、金融商品取引法(金商法)や、消費者金融等に適用される貸金業法などが関わってきます。
景表法や不当競争防止法で注意すべきは他の業種同様、「優良(有利)誤認表示」の項です。金融の場合、取り扱う「商品」がお金なので「優良と誤認」の恐れがあるかどうかの判断がより厳密に、具体的になります。さらに金商法によって「表示しなければならないこと」「表示してはいけないこと」が他の業種以上に細かく規定されています。あまりにも細かいのでここにその全てを紹介はしませんが、顧客が負担すべき対価や、損失が出る可能性があることなど、わかりやすく言えば「そのことを隠すことで顧客が想定外の出費を被る可能性のあることがら」は必ず表示する、ということになるでしょうか。金融の場合、基本的には具体的な条件や数値も添えて明示する必要があります。 逆に掲示してはいけないものは、虚偽の情報や、不確実なことをあたかも確定的に伝える表現、などがあげられます。利回りがあたかも確定しているかのように見せかけ、顧客が確実にトクをするように謳うなどを禁ずる姿勢は、景表法の「優良誤認表現の禁止」と根ざす思想が同じ、と言えます。
一方、信販会社、リース会社、消費者金融などのいわゆるノンバンク系の広告には「貸金業法」(およびその施行規則)が適用されます。銀行などよりもさらに細かく具体的に広告での表現を規制しています。一般に銀行のカードローンに比べ簡単に借り入れができるため、安易な借り入れによる生活困窮や破綻などを防止しよう、というのが本旨です。
具体的には、テレビ、ラジオ、出版物などそれぞれのメディア別に、明示しなければならない項目だけでなく、その文字の大きさや秒数などが規定されています。また、収入と借入額のバランスを考える、計画的に借り入れるなどの啓蒙文言を入れることや、掲出してはいけないメディア、放送ならオンエア時間なども定められています。例えば競馬・競輪の放送番組中や、主に青少年が購読する出版物には掲出が禁じられています。こちらも「顧客保護」という観点から、安易な借り入れを抑止することが目的です。ただ、当の貸金業者からすれば、自分の商品を「売り過ぎるな」と言われていることに他ならないわけで、なかなか厳しい規制ではあります。「お金を借りて下さい、と一言も言わずにお金を借りてもらう」という矛盾した広告表現のために、担当の広告クリエイターも苦心しているわけです。
さらに注意したいものに、業界と各メディア社の自主規制があります。
金融関連の企業が作っている業界団体には全国銀行協会、日本証券業協会などがありますが、それらの団体の中には関与する法律に基づき、広告表現についてさらに具体的な運用基準を設定しているところがあります。また、広告を掲出するメディアも、各会社の中に表現考査を行う部署を設置して、それぞれの会社の基準に基づいて広告物の表現をチェックしています。ある放送局ではオンエア可能だったCM素材が、他の放送局ではオンエアを拒否される例もしばしば見られます。基準は各メディア社によってまちまちです。気になる表現の掲出可否については、掲出を予定している全てのメディア社の考査担当に事前に内容をチェックしてもらうことをお勧めします。
Tips 金融特有の表現規制も、根ざすところは「消費者保護」。ただし、他業種より厳格。
暗号資産と広告表現規制
インターネットとそれを使った様々な決済方法が拡がっていくにつれ、新たな金融商品が生まれました。ビットコインなどの「暗号資産」です。既存の金融機関を通さず、ネットを通して24時間いつでも売買が可能。その手軽さが功を奏し、世界中に広がっていきました。当初、決済手段として見られていたものが、投機目的、さらにはマネーロンダリングの手段として使わられるに至り、それに伴って法整備が行われました。
その法律が資金決済法(正式名:資金決済に関する法律)です。この法律は、当初プリペイドカードや商品券などの前払式支払手段や銀行業以外による資金移動業を管理するため、2010年に施行されましたが、その後暗号資産も含めた規制を行うためにたびたび改正されました。現在この法律の中には暗号資産の広告に対する規制も含まれています。具体的には、「暗号資産交換業者(登録が必要)である旨及びその登録番号」、「暗号資産は日本の通貨や外国通貨ではないこと」、そして「価値の変動で損失が出る可能性があることや、弁済は受ける側の同意が必要であること」を明示することが義務付けられています。もちろん、虚偽の表示や、事実を誤認するような表示が禁止されているのは他の金融関連法制と共通しています。当初、「仮想通貨」として新たな決済手段と受け止められていたものが、投機目的のものとして勧誘する広告が横行するようになったことに対応して再改正され、現在に至っているわけです。
暗号通貨暴落のニュースもしばしば目にするようになった昨今、他の金融商品同様、事実を誤認するような、「絶対儲かります!」といった表現に待ったがかかるのは至極当然のことと言えるでしょう。
Tips 「暗号資産」も他の金融商品同様、「おいしい話」のような誘い文句はご法度
まとめ
ここまでお読みになると、金融業界の規制はあまりにもがんじがらめに感じるかもしれません。しかし資産運用にしても資金融資にしても世の中のニーズは常に高く、それがなければ資本主義経済は成り立たないと言っていいでしょう。法の規制をクリアしながらこのようなニーズに応えていくには、「なぜこれらの規制があるのか」の本旨に帰って表現を立案すること、これに尽きます。金融関連の広告表現の中には、金融商品の購入そのものを勧めるのではなく、資金運用について真面目に考えてみることを勧めているものを見かけますが、これも一つの解決策かもしれません。また、企業そのもののブランドイメージを高めて顧客からの信頼感を獲得するのも一つの方法でしょう。
金融は、本来なくてはならない存在。一人ひとりの人生を計画的に育てていくための心強いパートナー…生活者がそんな風に思ってくれるような広告表現は、これからもきっとできるはずです。