NFT、Web3、DAO等々、最近よく目にする言葉だと思います。これらの言葉は必ずしもマーケティングの世界のみで使われている言葉ではありません。むしろマーケティング以外のIT系の新しい話題として語られることが多いかもしれません。ときにはITの枠組みを超えてビジネス全般の話題として語られたり、アートやゲームの世界だったり、場合によっては政治の一つのテーマとして語られたりもしています。
また、その概念の解釈や応用範囲も刻々と変化しており、短期間のうちに状況が目まぐるしく変わっていきます。新しい考え方や概念が次々に生まれるマーケティングの領域でも、これらの言葉はますます頻繁に使われるようになってきています。
そこで、本稿ではこれらの話題についてまとめてそのポイントを解説し、新しい取り組みを考える際のヒントとしていただければと思います。
ブロックチェーンとは
NFT等の概念を見ていく際に、まず知っておくべきなのがブロックチェーンについてです。ブロックチェーンについては、暗号資産などのデジタル資産を支える技術として認識されていることが多いですが、ここであらためてその基本的な仕組みについて説明しておきます。
ブロックチェーンでは、ネットワーク内で発生した取引の記録を「ブロック」と呼ばれる記録の塊に情報を暗号化して格納します。個々のブロックには取引の記録に加えて、1つ前に生成されたブロックの内容を示す情報などを格納します。生成されたブロックが、時系列に沿ってつながっていくデータ構造がブロックチェーンと呼ばれる理由です。
ブロックチェーンの重要なポイントは、このように連鎖したブロックで情報が繋がっていくため、ネットワークが一か所で中央集権的に管理されているのではなく、各ブロックに記録された取引情報のネットワークで情報が分散されているところにあります。
このような仕組みであるため、ブロックチェーンは以下のような特徴があります。
システムがダウンしない
中央集権的なネットワークでは、中心で管理をしているシステムがダウンするとネットワーク全体がダウンしてしまいますが、分散型ネットワークでは、一部分がダウンしても他の部分がダウンしていなければシステム全体がダウンするということはありません。理屈では全てのシステムが同時にダウンすればシステムが停止しますが、現実的にはそのようなことはあり得ないため、システムダウンということは考えられません。
情報の改ざんができない
中央集権的なネットワークでは、中央のシステムがハッキングされるなどして情報が改ざんされてしまうおそれがありますが、分散型では一部の情報を書き換えても他の部分に情報が保存されているため、その書き換えた部分が他の情報と整合性がとれなくなってしまいます。全てのブロックに書き込まれた情報を改ざんするということは現実的に不可能であるため、情報の改ざんはできません。
ブロックチェーンは、このような特徴を持つため、暗号通貨のような従来型の中央銀行が発行する通貨と異なる新しい仕組みとして活用されています。
Tips ブロックチェーンはNFT、Web3、DAO等を支える技術。そして分散型のネットワークであり、情報の改ざんができず、システムがダウンしないという特長がある。
NFT(Non Fungible Token)とは
次に、このようなブロックチェーンの技術を応用したものとしてNFTの基本的な仕組みをご紹介します。
デジタルコンテンツは複製が容易であるという特徴があります。また、デジタルデータなので、完全に同一のデータを複製することが可能です。このようなデジタルデータは、「一点モノ」としての価値を持たせることが難しいという課題があります。
これが従来のアート作品、例えば絵画であれば、実際にキャンパスに描かれた作品は一点しか存在せず、高度な複製画であっても、しかるべき鑑定をすれば、その作品がオリジナルかどうかを判別することが可能です。
しかし、デジタルデータは完全にオリジナルのものを複製することが可能であるため、オリジナルであることを証明できなかったわけですが、ここでブロックチェーンの技術を活用することで、情報の改ざんができないという利点を活用して、デジタルデータであっても「一点モノ」としての価値を持たせることができます。NFTは「Non Fungible Token」の頭文字をとったものですが、“Fungible”とは代替可能という意味で、“Non Fungible”は代替不可能ということで、オリジナルの唯一性を保証することができるわけです。
この特徴を活かして、NFTはデジタルアートへの応用から始まり、マーケティングの領域でも活用されるようになってきました。例えば、あるブランドのメンバーシップの会員証をNFTにしたり、イベントのチケットをNFTで発行したり、ウイスキーやワインの樽を個人所有することの証明書をNFTにしたりする事例があります。また、ゲーム内でアバターに着せる「一点モノ」の希少なファッションを販売したり、ゲーム内で使う武器を販売したりすることにも応用されています。
他にも様々な応用の事例が表れてきており、今後もさらに拡大していくことが予想されます。
Tips NFTはデジタルコンテンツに「一点モノ」の価値を持たせることができる。そこにはブロックチェーンの技術が応用されている。
Web3とは
Web3はWeb1.0やWeb2.0の後のWebの考え方として提唱されたものです。Web1.0がオンラインでコンテンツを見るだけだった時代、Web2.0はユーザーが情報発信をし、そのデータを大手のプラットフォーマーが活用する時代とされます。
Web1.0からWeb2.0への変化は、従来のメディアのあり方を大きく変えました。大手のマスメディア企業のみならず、一般消費者が情報の発信者になり、世の中を変えるようなムーブメントに発展することもありました。
しかし、一方で一部の大手のプラットフォーマーに情報が集中し、そこではまさに中央集権的な仕組みができてしまいました。システムがダウンしたとたんにコミュニケーションが途絶したり、情報管理の安全性についてのリスクが高まったりしたともいえます。
ここで活用されるのがブロックチェーンの技術です。内閣府が2022年6月に発表した「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」でも「ユーザーが自らデータの管理や活用を行うことで新しい価値を創出する動きが広がっており、こうした分散型のデジタル社会の実現に向けて必要な環境整備を図る」と書かれており、Web3を推進するとの意思が示されています。
Tips Web3は巨大プラットフォーマーが市場を寡占することを否定する。
DAO(Decentralized Autonomous Organization)とは
DAOは「Decentralized=非中央集権的な」、「Autonomous=自律型の」、「Organization=組織」ということで、これも中央集権から分散型へ、という動きに呼応したものです。
DAOは「組織」ですが、従来のようなピラミッド型の階層構造をもった組織ではなく、上下の無いフラットな組織であり、かつ中央からコントロールされることのない自律型の組織という点が特徴です。従来型の会社組織のように、株主総会や経営者といった中央集権的な仕組みではなく、各自が自律的に行動できる組織ということになります。 副業・兼業人材が集まったプロジェクト単位で組成される組織や、NPOなどは親和性が高いと考えられます。
DAOの組織ではソフトウェア開発のエンジニアやデジタルアートのアーティスト同士がフラットな組織を作って仕事をするといった事例があります。
また、このような組織では、その報酬は中央銀行が発行する通貨ではなく、暗号通貨で報酬を得られるという場合もあります。組織への貢献が非中央集権的な報酬で得られることで、その組織への貢献のモチベーションを高めることができます。
Tips DAOは非中央集権的でフラットな組織。これからの時代の組織のあり方はDAO的なものとなっていくかもしれない。
まとめ
本稿では、NFT、Web3、DAOといった最近よく話題になるキーワードに焦点をあてて、その基本的な部分についてご紹介しました。実例については次々に新しいものが現れてきており、日々変化しているため、常に情報をアップデートすることが重要ですが、その非中央集権的な仕組みであり、フラットなネットワークであるという概念は、これからの時代を生きていくための重要な考え方になると思われます。
マーケティングの世界のみならず、広くビジネス全般に影響を与えるものであり、皆さんのビジネスへの応用や影響について考えていただけるとよいと思います。