トレンド 多様性の時代に、いい人材を確保するためのメッセージとは いい人材を採用すること、それは会社の存続と持続的な成長を考えたときに、最も重要な課題の一つだと思います。「なかなか良い人材がうちには来てくれない」「うちは人気企業ではないので、良い人材は人気の企業や大手に取られてしまう」「そこまでの待遇をうちは出せないので、限界がある」これらの声は特に中小企業の人事担当者からよく聞かれることです。ここでは、そんな中で少しでもいい人材を採用するために、すぐに実践できそうなことを提案させて頂きます。 企業はどんな人材を採用したいのか?また、求職者はどんな企業を求めているのか? まず初めに、そもそも企業はどういった人材を採用したいと思っているのかを考えてみたいと思います。2022年9月に帝国データバンクが実施したアンケート(※1)では、「コミュニケーション能力が高い」、「意欲的である」、「素直である」、「真面目、または誠実な人柄である」といったところが上位にあがってきており、これが中途採用をメインとする企業だと「専門的なスキルを持っている」といった回答が上位に来ています。その他、上位の回答に上がってきている「行動力がある」「精神的にたくましい」「主体性がある」など、このすべてを兼ね備えている人であれば、どの企業も採用したくなりますよね。一方で、求職者の企業選びの軸としてエン・ジャパンが2020年11月~2021年1月に実施したアンケート(※2)によると、「勤務時間・休日休暇・勤務地が希望に合うこと(1位)」「仕事を通じ、やりがい・達成感が得られること(2位)」「入社後の仕事内容がイメージできること(3位)」などが上位に並びます。その他の項目も見ていくと、待遇面や世間からの見え方の面での希望は5位に「年収アップができること」、9位に「教育・研修が整っていること」15位に「評価への納得度が高いこと」18位に「知名度が高い企業であること」が入っていますが、待遇や知名度よりも、自らのライフスタイルに合わせて成長できるかどうか、というところを優先する傾向が高まってきているようです。 上記から分かるのは、企業は「その人材が会社へ価値をもたらすことのできる素地があるのか」という観点で選考するのに対し、求職者は「その会社が自分に対してどのような価値をもたらしてくれるのか」という観点で評価をしており、若干の違いはあるものの、本質的には互いに価値をもたらしあう存在であることが、マッチングのポイントとなります。何かを求めるときに、相手のニーズを把握する、つまり企業側にとっては、求職者にどのようなニーズがあるのかを理解するのが、まずは成功への第一歩と言えそうです。 Tips 企業はコミュニケーション能力が高く、意欲的で、素直で誠実で、スキルのある人材を求める 求職者は自らのライフスタイルに合わせて成長できるかどうか、というところを優先する傾向が高くなってきている 企業にとっては、求職者にどのようなニーズがあるのかを理解するのが、まずは成功への第一歩 どんなところに気を付けてメッセージを発信するといい人材を採用できるのか? 求職者のニーズを理解したところで、次に「どんなところに気を付けてメッセージを発信するといい人材を採用できるのか」について、考えていきたいと思います。 既に触れさせて頂いたように、求職者が自らのライフスタイルに合わせて成長できるかどうかをポイントにしている以上、そこに気を付けて発信するということに尽きますが、問題は「自らのライフスタイル」がそれぞれ違う、ということです。昔の広告は「ペルソナ」という、自社の製品やサービスの典型的なユーザーを体現する仮想的な人物像を作り上げ、その平均値を体現する仮想的な人物をターゲットにキャンペーンを組み立てることが多くありました。この手法は経済成長とともに、大量生産、大量消費がなされていた時代には効果がありましたが、今は画一性を前提にマーケティングを行う時代ではなくなりました。これは広告だけではなく、組織の問題でもあります。一つの価値観が支配するモノカルチャーの組織も、世の中から少しずつ受け入れられなくなりつつあるのです。 少し話が飛びますが、イギリス「タイムズ」紙の人気コラムニストであるマシュー・サイドが、「多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織」という本の中で触れていますが、2001年9月11日の同時多発テロを防げなかったのは、CIAが職員選考の際に、同質性を無意識に重視してしまった結果、そのほとんどが白人、男性、アングロサクソン系、プロテスタントといった人材に偏ってしまい、イスラム教徒ならすぐに分かる数々のメッセージを見落としてしまったことが原因だと指摘しています。つまり、画一的な組織は、本業でのリスクも抱えてしまうことになるのです。話をもとに戻すと、気を付けるべきことは一点です。それは求職者が「多様性を感じ取ることができ、その多様性の中に求職者自身も受け入れてくれそうだ」と感じることのできるメッセージを送るということです。 Tips 求職者が自らのライフスタイルに合わせて成長できるかどうかをポイントにしている以上、そこに気を付けて発信する 一つの価値観が支配するモノカルチャーの組織も、世の中から少しずつ受け入れられなくなりつつある 画一的な組織は企業としての採用力が落ちるだけではなく、本業でのリスクも抱えてしまうことになる 求職者が「多様性を感じ取ることができ、その多様性の中に求職者自身も受け入れてくれそうだ」と感じることのできるメッセージを送る 具体的な求人メッセージについて それは分かったけれど、具体的にどういうこと?LGBTQとか、障がい者雇用とか、そういうこと?と、思うかもしれません。もちろんそういうことでもあります。ただ、今からすぐにでも出来ることで、この記事のテーマでもある「いい人材を確保する」ために即時的で実効性のあることが一つあります。それは女性にターゲットを置くということです。一応お断りしておきますが、女性にだけターゲットを設定するという意味ではなく、女性をターゲットとしてきちんと意識する、ということです。「なんだ、そんなことか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、きちんと理由があるのです。日本は世界経済フォーラムが発表する「ジェンダーギャップ指数2022」で146か国中116位、上位にはアイスランド(1位)やフィンランド(2位)、ノルウェー(3位)、スウェーデン(5位)など北欧の国が続きます。日本は先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となっているのです。この結果を悲観的に捉えるのではなく、他の側面から捉えると、「女性が過小評価されている」国である以上、まだそこに気がついていない、もしくはターゲットとしてきちんと捉えていない企業がたくさんあるということです。であれば、そこに気がつき、ターゲットとして正当に評価をすれば、企業が提示できる条件は同じでも、よりよい人材を採用できる可能性があるのです。実際に筆者は今年度、400人近い応募者の中から複数名の採用をしましたが、圧倒的に女性によい人材が多くおり、男性より女性を多く採用した結果、既に予想以上の活躍をしてくれています。よく言われる、商社で成功するタイプとして、ある国に行ったときに、靴を履いている人がほとんどいなかった時に「この国はダメです。靴を履いている人がほとんどいないので、靴を売りに行っても売れません」と言うのか、「この国は最高です。靴を履いている人がほとんどいないので、これからどんどん靴を売りましょう」と言うのかで適性が全く異なるという話がありますが、おそらくジェンダーギャップ指数の高い北欧の国から日本を見たときに、同じことを思うはずです。言い方を変えると、今の日本において、女性を積極的に採用しない手はない、ということです。 Tips 女性にターゲットを置く 日本は世界経済フォーラムが発表する「ジェンダーギャップ指数2022」で146か国中116位、「女性が過小評価されている」国である 女性をターゲットとして正当に評価をすれば、企業が提示できる条件は同じでも、よりよい人材を採用できる可能性がある 今の日本において、女性を積極的に採用しない手はない まとめ 多様性というと、なんだか分かるようで分からなかったりしますが、重要なのは「できることから取り組む」ということだと思います。今すぐ出来ない大きなものに対して目の前で立ちすくみ、何も出来ないよりも、出来ることから始めることがとても大事だと思います。女性が正当に評価されていないところに目を付けて採用するなんてダメだ、というお叱りを受けるかもしれませんが、それは「正当な評価、採用をして、社会を変えていくための第一歩」と考えて、その結果、多様性を受け入れ、その受け入れた多様性が力になる組織を作り上げていくことが最も重要なことだとポジティブに考えていただけると、とてもありがたいです。 ※1 帝国データバンク 特別企画:企業が求める人材像アンケートhttps://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220905.pdf※2 エン・ジャパン 転職者心理【2021年版】https://partners.en-japan.com/special/210521/ トレンド