街じゅうで外国人観光客らしき人をよく見かけるようになってきました。電車の中やターミナル駅、繁華街、観光スポットとして有名な浅草寺、渋谷のスクランブル交差点、目黒川周辺の桜並木、新宿の歌舞伎町、等々、多くの外国人観光客が訪れているのを感じます。
このように感じる一方で、「まだまだコロナ前に比べると本格的な回復にはほど遠い」といった意見や、「インバウンド市場の回復への期待はすべきではない」といった意見も見受けられます。
実際のところはどうなのか、既にまとまった数字が発表された資料を中心にインバウンド市場の現状を概観しつつ、今後の展望を予測し、具体的にどのような対策を行っていくべきなのかを見ていきたいと思います。
訪日外国人数の現状
全体の動向
まず、全体の傾向を把握するために、訪日外国人全体の数字の動向を見てみたいと思います。
日本政府観光局の統計によると、2023年4 月の訪⽇外客数は 2019 年同月比 66.6%の 1,949,100 人となり、2023年3月に引き続き2022年10 月の個人旅⾏再開以降で最高を更新しました。
https://www.jnto.go.jp/news/20230517_monthly.pdf
国別の動向
ここで、日本を訪れる人々がどの国から来ているのかを見てみましょう。
先ほどの日本政府観光局のデータを見ると、2019年の1~4月と2023年の1~4月の訪日客数を見ると、既にコロナ前を上回っている国もあります。ベトナムは2019年の177,928人が216,200人となり21.5%増、シンガポールは129,169人が148,400人と14.9%増、アメリカが542,671人から562,000人と3.6%増となっています。
一方、まだコロナ前の水準に大きく差があるのが中国からの訪日客数です。上記と同様に日本政府観光局のデータでコロナ前後を比較すると、2019年の1〜4月が2,895,449人なのに対し、同時期の2023年は251,600人と、10分の1以下の数字となっています。これは中国による海外団体旅行の解禁対象国に日本が入っていないことが原因だと思われます。中国政府は2023年1月から段階的に国外旅行を許可すること表明し、団体旅行も再開してきましたが、2023年5月現在、日本は対象国とはなっていません。(2023年8月に解禁)
個人の動向
個人レベルでの動向について観光庁の「訪日外国人消費動向調査」の2023年1〜3月データによると、1人あたりの旅行支出は21万2,000円となっています。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001602887.pdf
これは、観光庁が「新たな観光立国推進基本計画の素案について」で掲げた1人あたりの旅行支出を20万円とする目標を既に達成していることになります。
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001586267.pdf
この高い旅行支出を維持するためには、日本の観光産業が高い付加価値を提供し続けることが必要ですが、支出額の多い旅行者に注目すべきということは、観光産業のみならず、インバウンドマーケティングを志向する全ての産業のマーケターが意識しておくべきポイントだと考えられます。
[Tips]
- インバウンド市場全体の規模は、2023年中にはコロナ前を上回る勢い。
- 国別の動向では中国がどうなるかが重要ポイント。
- 個人では、旅行支出の多い富裕層が狙い目。
インバウンドマーケティング対策
国別の施策
国別の動向でコロナ前よりも訪日観光客の数が増えている国については、コロナによる制限が解除されたら日本を訪れたいという潜在的なニーズがあったものが顕在化したと考えられ、このニーズを刺激して、いっそうの観光客の誘致を図ることが、有効なターゲット戦略になります。
都心で外国人観光客を再び多く見かけるようになってきたのに加え、地方の観光地においても外国人観光客が増加していますが、これら多くの観光客は、訪日前にかなり入念に情報収集をしていることが想像されます。そのため、インバウンドマーケティングの成功のためには、まず外国人観光客に向けたメッセージを発信する場が必要です。具体的には、多言語化された自社サイトや自社商品を販売するECサイトなどが重要なコンタクトポイントとなります。アクセス解析を行うことで、自社サイトにどの国からのアクセスが多いのかを確認し、その国に向けた情報発信を行ったり、その国のメディアへの広告出稿やPR記事の露出を行ったりすることも有効な施策になります。
また、SNSについては、国によって特有のSNSが発展している場合があります。多くの欧米諸国ではX、Instagram、Facebookなどが使われていますが、韓国ではNAVERは外せませんし、中国ではWeiboやWeChatの活用が必要になります。中国の場合は、検索エンジンもGoogleではなくBaidu(百度)になりますので、個別の対応が必要です。
このような、訪日観光客の動向を踏まえた国別の施策がインバウンドマーケティングの基本になります。
ターゲット別の施策
一人当たりの旅行支出が増えているのは、富裕層のほうが先に観光市場に戻ってきているのが理由だと考えられます。そのため、ターゲット別の施策としては、富裕層を狙ったコミュニケーションが有効になります。SNSでは、ターゲット層の詳細な属性を指定してコミュニケーションを行うことが可能なため、SNSを活用して富裕層を中心に狙っていくということが重要です。
また、日本への旅行に魅力を感じている点として、伝統的な観光地への訪問のみならず、日本の特徴的なコンテンツであるアニメやゲーム、また日本の伝統的な文化に触れることができるということがあります。さらに、和食のような飲食も大きな魅力だと考えられ、昨今ではガストロノミー・ツーリズムと呼ばれたりもしています。このような旅行者の興味関心領域を強く打ち出すことで、訪日時に観光客をひきつけることができるようになります。これは、観光産業のみならず、百貨店や量販店などの小売店舗への誘引の際の施策に応用できたり、国内イベントへの集客にも有効だったりします。
ターゲット別に施策を実施することはマーケティングの基本ですが、これはインバウンドマーケティングにおいても同様です。
[Tips]
- 国別のマーケティング施策の実施が必要。特にSNSの活用は要注意。
- ターゲット別の施策もインバウンドマーケティングの基本。
まとめ
コロナ禍でとても大きな負の打撃を受けたインバウンド市場ですが、既に復活の兆しを見せており、さらにはコロナ前を上回る勢いとなっています。なかなか景気が回復しない日本市場においても短期間での回復が期待される市場なので、ぜひ注目していただきたいと思っています。