水産物のブランディングとプロモーション ~生活形態の変化にどう対応?

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水産物のブランディングとプロモーション ~生活形態の変化にどう対応?

テレビの情報番組の中でもグルメ関連の情報は日々大量に取り上げられていますが、その中でもシーフード=水産物に関する話題は多いように思えます。やはり日本人にとって「海の幸」は、今の時代も注目されている素材、といえるのでしょうか。ここではそのマーケティング戦略に関して述べますが、そのエッセンスの中には他の業種にも参考になる要素が少なくありません。

国内の代表的なブランド化された水産物

海に囲まれた日本。我々の食卓に魚は欠かせません。ブランド化を狙って各地の水産物がしのぎを削っています。代表的な成功事例は大分県佐賀関の「関あじ・関さば」でしょう。大分県佐賀関沖の豊後水道であがるマアジ・マサバは、この水域の潮流の速さのおかげで身が引き締まり脂ののりもよいとされ、また一本釣りで釣り上げられ、船のいけすで生きたまま漁港まで運ばれるため味の劣化も少ない、と言われます。50cm近い大型のアジは、浜値で1匹1,000円以上の値がつくこともあります。この「関あじ・関さば」のブランド化には、佐賀関漁協が中心となって主に東京の市場へ高級魚として売り込みにあたったことが突破口になりました。いったん東京の有名店での扱いが始まると、一気にブランド魚としての地位を獲得したのです。

大分県佐賀関の対岸、愛媛県の佐田岬半島の三崎漁港からも豊後水道のアジ釣り漁船が出ています。釣ったアジは「岬(はな)アジ」という名で売っています。ほとんど同じ海域で釣れたアジで、味覚面でもほぼ同じと評価されながら、価格は関アジより安く売られています。その差はブランド力、と言えるでしょう。

最近は宮城県の金華さばがブランド化に成功しています。ブランディングが成功すると、それを活用した商品・加工品にもブランド価値が生まれます。「金華さば」で作った商品は人気が高く、「金華さば」というブランド力で「金華あぶりしめさば」、「金華さば西京漬」等、ヒット商品になっています。ブランド化されることで、高い値付けが可能となり、商品開発需要が高まり、多様な形態でその商品を売ることが可能になります。

【Tips】ほとんど同じ海域で釣れた魚で生じる価格差。その差はブランド力

ブランド化へのプロセス

水産物をブランド化するためには、それがどのような特徴を有しているかをアピールする必要があります。牡蠣が広島県の名物であることはよく知られています。従来、牡蠣は県の西部地域で主として養殖されていました。生産量は国内一です。近年、新しく福山市など県東部地域でも牡蠣の養殖を始めたのですが、長年全国的なブランド価値を確立してきた県西部地域の牡蠣に伍していくことは容易ではありません。新規参入の形となる福山市漁協ではネーミングを工夫するほか、県東部地域の海域の特徴を流れ込む川の水質の特徴をも洗い出してパンフレットなどで解説しています。その特質を説得できなければ、すでにブランドを確立した立場にある県西部地域の牡蠣よりも値引いた額で出荷せざるを得ない立場に固定化してしまうリスクを負うことになるからです。実際にはほぼ同じ製品が違った価格で売られています。この魚はなぜおいしいのか(どの点で優れているのか)の説得性が大切です。例えば、「関あじ・関さば」のような一本釣りは画になりやすいこともあり、おいしさの根拠としてしばしば強調されていますね。

古くから江戸の初ガツオが珍重されてきましたが、味がうまいのは戻りガツオだと気仙沼漁協などがPRしています。初ガツオは珍しいものとして自慢される存在であるのに対して、戻りガツオは栄養をたっぷりと蓄え、脂がのっているからであると。大学や研究機関などのデータを掲載して明示するパンフレットなどの資料で対外アピールもしてきました。
えさとなる豊富なプランクトンの存在がその地域の魚を美味しくしていることなどはよく語られています。あるいは背後の森から溶け出した成分をたっぷり含んだ水が川の栄養分となり、その環境下で育つ魚介類が特有のうまみを持っていることも地域固有のプラス要素になるでしょう。

【Tips】特性を、説得力を持って語ることが大切

消費者の生活形態の変化とプロモーション

食品は暮らしの様式変化により、人々の趣向も移り変わってゆきます。水産物の販売促進においても、消費者の生活形態の変化を常に見続けることが欠かせません。
2020年のワイン消費数量は対前年98.6%と微減となっていますが、10年前と比較すると約1.3倍に拡大しています。日本国内のワイン消費数量は40年で約8倍となるなど、上昇トレンドの中にあることは間違いありません。ワインには肉料理が伴うことが多い印象がありますが、そのマリアージュは魚であってもいいはずです。料理のレシピ開発をするなど、プロモーション提案を積極的に行うのもよい方法です。例えば、スペイン料理には魚介を使用したものが多くあります。 オリーブオイルも調理によく使われています。魚介を食する際にはごはんとの組み合わせが多いのが現状ですが、パンやパスタを組み合わせるレシピ開発の余地はまだまだ大きいのではないでしょうか。

【Tips】消費者の生活形態の変化を常に見続ける

アフターコロナの販売促進策 ~生じつつある新しい動き

コロナ禍は水産物の流通に大きな影響を与えました。緊急事態宣言で、価格を大きく下げる事例が各地で続出しました。とくに影響が大きかったものは、ブリや真ダイなどの養殖魚です。養殖魚は出荷時期がずれて育ち過ぎてしまうと売り物になりません。飲食店や観光施設向けの流通が滞ってしまうこともありました。
多くの商品の購買構造が変化していきました。水産品も例外ではありません。家に籠る傾向が続く中、EC(電子商取引)が伸びてきました。従来、消費者向けECによる水産品、なかでも鮮魚の販売は、種類が多いうえに、品質が変わりやすいことから、扱いが難しい点がありました。ところが、最近ポケットマルシェ(ポケマル)などのECプラットフォームが登場しています。これは、全国の農家や漁師が収穫の直後にスマホで出品できるアプリで、消費者にとっては魅力ある食材をより新鮮なまま手に入れられるのがメリットです。その利用のしやすさや、生産者を応援しようというムーブメントがあり、新しい動きとなっています。行政による送料補助の施策も寄与しました。

在宅で時間の余裕を持つ生活者へ向けてのマーケティング施策も打ち出されています。ECにおいて魚を切り身ではなく、一匹丸ごとで販売される割合が増加しています。そのさばき方を動画などで手ほどきすることで、今まで手間としか受け止められていなかった魚の下ごしらえを含め、調理から食べる行為までの一連の流れ自体を楽しんでもらえるわけです。たとえば、パーティの場で招待客に喜んでもらう一種のパフォーマンスとして推奨することで、新たな購買需要へとつながっていきます。売り場が専門店やスーパーなどの店頭からECの場へと広がることで、プロモーションの新しい手法が入り込む余地が生じているのです。

生産者がECへ出品することで、消費者の声を直接聞くことができるようになりました。今まで消費者の行動は、スーパーなど店頭の担当者を介して聞くことが多かったわけですが、直接接することで、彼らの需要をダイレクトに感じることができ、商品開発のヒントとして活かすことが可能になりました。

販売にあたっては、水産物の長所・短所を分析する必要があります。先に市場で消費者になじみの品となっている競合の水産物がある場合、そのシェアを崩すためには、ある程度の資金や期間を要することにはなりますが、すでにブランディングの先例があるので、先行商品のサイト等を研究できるのは一種のメリットとも考えられます。訴求すべき水産物の強みがどこにあるのかを分析しましょう。この特徴は、今後の広報の際に伝えるべきメッセージの核となります。

【Tips】ECなどコロナ渦後の新しい動きへの対応が重要

まとめ

ここでは水産物のマーケティング事情をご紹介しましたが、同様のチャレンジは米や野菜、果物などの農産物を始め、各地域の特産品・工芸品などにも応用できそうなのは容易に想像できます。その商品の特性に根差し、その魅力を最大化するべく、時代の生活トレンドに合わせてブランディングしていくことができれば、今まで知られていなかった新たな魅力ある産品が人々の食卓を彩ることになるでしょう。

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